戦後80年
記憶をつなぐ


この作品の撮影のために集まってくれたシニアの面々は、収録後に「本当に楽しかった」「参加してよかった」と
言ってくださった。
そもそも、あの時代を生きた人々がともに集まる機会がない。
そんな機会が与えられたことが嬉しいと。「海ゆかば」をあの時代の人々とともに歌う経験など
戦後、全くと言っていいほどなくなっていたから、それそのものへの喜びもあったのだろう。

「海ゆかば」は、当時を生きた少年少女たちが、
唄ったものだから、彼らの記憶の中に刻み込まれている。歌詞は万葉集からとられたものだから、
あの大戦とは直接的に全く関係がない。

しかし戦時下にあって、この歌を唄った人々にとって、
それは悲しみ、
憂い、涙の滲む記憶だ。
そのため、土壇場で参加を見合わせた方もいた。






だが、彼らはあの時代に
確かにこの歌を唄ったのだ。その記憶は封印されたり、
消去されるべきではない。
その記憶を繋いでいかなければいけない。

戦争の悲劇を伝える
反戦ドキュメンタリーとしてではなく、ことさらに、命を捧げた人々を
美化する英雄物語としてでもなく、
戦争賛美でも、軍国主義批判でもなく、「歌った」という事実に立脚した音楽作品として表現できないか。そして、記憶を繋ぐ一助となれないか。
それが、この作品を制作するにあたって
プロデューサーとして込めた想いだ。